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フォーラム

「日本海イノベーション会議」金沢工業大学プログラム
 「炭素繊維が世界を変える」

〜金属より軽く強い次世代の新素材〜

 日本海イノベーション会議の金沢工業大学プログラム「炭素繊維が世界を変える」は12月6日、金沢市の北國新聞20階ホールで開かれ、炭素繊維をテーマに3人の専門家が講演し、来場者は開発の歴史や用途、今後の可能性について理解を深めました。

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【講演1】─複合材料の生い立ちと炭素繊維─温故知新

[講師]松井 醇一氏(まつい・じゅんいち 金沢工業大学客員教授、文部科学省産学官連携コーディネーター)
航空機の重要部分の炭素繊維化が進む
古来からの知恵を生かす
 いくつかの異なる素材を組み合わせたものを複合材料と呼び、単一の材料よりも強度が高いなどのメリットがあります。
 複合材料は泥に小枝やわらを混ぜたツバメの巣など、自然界にも見られます。人間も古来から複合素材を使っていて、旧約聖書には日干しレンガを作る際、わらを混ぜたとの記述がみられます。石川県の特産である輪島塗は、漆を塗る前に木地に布を巻いて補強します。これも複合材料の一つと言えるでしょう。
 現在でも、さまざまな複合材料が暮らしの中で活躍しています。代表的なものとしては、風呂の浴槽や浄化槽などに使われるガラス繊維強化ポリエステル樹脂(FRP)があります。ポリエステル樹脂と短くカットしたガラス繊維を混ぜることで強度と耐久性が高まります。
 また、ガラス繊維の織物とエポキシ樹脂などを組み合わせた複合材料は電子回路基板に使われています。高い熱硬化性を持つエポキシ樹脂をガラス繊維に染み込ませて固めることで、以前のように大きな圧力でプレスしなくてもよくなり、随分と製造が楽になりました。
 アラミド繊維は、はさみで切ろうとしても切れないほどの強度が特徴の複合材料で、航空機のジェットエンジンの安全カバーに採用されています。自動車のタイヤや光通信のケーブルを守るカバーとしても利用されています。抜群の強度を誇り、ネズミがかじっても、石がぶつかっても中の電線は傷つくことがありません。炭化けい素繊維を用いた複合材料は高い耐熱性を持っているので、ロケットエンジンの部材として注目されています。
2人の日本人が開発
 近年、注目を集めている複合材料としては炭素繊維強化樹脂(CFRP)があります。炭素繊維は金属よりも軽く、強度や弾性率にも優れています。炭素繊維には、PAN系とピッチ系の2種類があります。PAN系はアクリル繊維を熱処理したもので高強度が売りです。ピッチ系は石油や石炭などを蒸留した際に出る副生成物から作られ、高弾性率が特徴です。
 実はこれらの炭素繊維は、1960年代に二人の日本人が開発しました。そして、これらを部品に取り入れた航空機が欧米で製造されるようになりました。機体の軽量化が進めば、燃費の向上に役立つからです。
 日本製の炭素繊維が初めて航空機に採用されたのは、1972(昭和47)年に製造されたエアバス社のA300でした。その後、81(昭和56)年には、ボーイング社の767型機で尾翼の方向舵に使われるなど、使用量が増えてきました。
 90(平成2)年には、777型機の尾翼の水平安定板や床支持桁など、飛行の最重要部分となる一次構造材として活用されるなど、用途が広がりました。最新の787型機では、主翼や胴体など、機体の一次構造の大半を日本企業が担うという喜ばしい結果となりました。航空機におけるCFRPの使用量は、年々上昇しています。今や、多くの航空機の部品が炭素繊維でできており、平均的には、一機の総重量の25〜30%を占めています。
 航空機のほかにも、テニスラケットやゴルフクラブといったスポーツ用品、そして、釣りざおなどのレジャー用品にも用いられ、その軽さなどから、人気を博しています。
 このように炭素繊維は、さまざまな場所で重宝していますが、製造コストがかかるため、高価格なのが難点です。一キロ数十円で取り引きされる合成繊維があるのに対し、炭素繊維は今年10月の段階で一キロ約5,000円です。今後は、炭素繊維の値段を抑えるために、新たな製造技術を開発し、さらなる用途拡大を目指します。
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【講演2】─炭素繊維複合材料で何ができるか─研究開発の広がりと展開

[講師]金原 勲氏(きんぱら・いさお 金沢工業大学副学長・教授、ものづくり研究所所長)
海峡間をつなぐ橋や宇宙エレベーターに
日本での利用は16%
 全世界で使われている炭素繊維の約70%は、日本の三つのメーカーで生産されています。とはいえ、日本国内での利用は生産量の16%に過ぎません。残りの84%は輸出され、主にアメリカやヨーロッパで使われているのが現状です。
 その理由としては、炭素繊維の主な用途である航空、宇宙分野の産業が日本で育っていない点が挙げられます。同時に、これまで日本では、ゴルフクラブなどスポーツ用品以外の用途開発が積極的に行われてこなかったことも事実です。
 今後、炭素繊維の用途を拡大していくには、繊維そのものを作っているだけでは不十分です。なぜなら製品化するには、素材を成形したり、加工したり、修理したりする技術が必要となるからで、日本でも炭素繊維の利用拡大に向け、ものづくりのための技術開発が進められています。
 研究の成果を一つ紹介しておくと,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等により、日本のものづくり技術の優位性を活かした技術開発が行われ、現在では長さ30メートルの航空機の主翼を一体成形する技術が実用化されるようになりました。
 通常、大きな製品や形状の複雑な製品は小さな部品をリベットなどでつないで作ります。しかし、これでは構造が複雑になる上、接合部分が破損の原因にもなりかねません。そこで、こうした部品を一体成形することで、部品点数が削減され、一層の軽量化に役立つ上、故障のリスクも減るというわけです。
汎用車への普及目指す
 鉄に比べ、軽くて強い炭素繊維の利点を生かして用途を拡大するならば、高速で動く製品への応用が真っ先に考えられます。中でも、今後有望視されている用途の一つが自動車です。
 自動車のボディやシャーシは、ほとんどが鉄鋼材で作られています。これらを炭素繊維で作れば、1,350kgの車体を660kgにまで軽量化することが可能です。大幅に軽くなれば燃費が向上し、温暖化ガスの排出を抑制できます。地球温暖化防止の観点からも、炭素繊維の自動車への応用は意義のある技術開発なのです。
 今でも、炭素繊維が使われている自動車はありますが、何千万円もするスポーツカーなど、ごく一部の高級車に限られています。今後、汎用車にまで普及させるには成型時間の短縮など、さらに技術開発が必要です。NEDOや東レが中心となって、量産に対応できるよう早いサイクルで成形する技術、金属など異種材料と接合する技術、安全性を確保する設計技術、リサイクル技術などについて研究が進められ、一部は実用化されるようになりました。
 また、炭素繊維の用途開発はこれまで、金属製の部品を炭素繊維で作って置き換えるという考え方で進められてきました。しかし、これからは、従来の材料では作ることができなかったものや従来の方法では効率の悪いものに挑戦することが、用途を広げるかぎとなります。
 例えば、水深7,000メートルの海底から原油を掘削し、くみ上げるための設備やヨーロッパとアフリカを隔てるジブラルタル海峡にかかる長さ16,000メートルの長大橋、宇宙ステーションと地上を結ぶエレベーターなどへの利用は将来の夢でしょう。
 古くから繊維産業が発展してきた北陸地域では、繊維を編んだり、織ったりする技術が集積しています。私が会長を務める「ほくりく先端複合材研究会」では北陸の企業など35社をはじめ産官学が連携して、炭素繊維強化樹脂(CFRP)など、先端複合材料の研究に取り組んでいます。
 このほか、金沢工業大学では、昨年12月に東レと炭素繊維複合材料の研究に関する協力協定を結びました。協定に基づいて本学のものづくり研究所内にCFRPの成形、評価設備を導入し、損傷の仕組みや耐久性を研究し、新たな用途開発に貢献していく考えです。
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【講演3】炭素繊維はイノベーションのキーマテリアル

[講師]須賀 康雄氏(すが・やすお 東レ株参事)
リサイクルが可能 温暖化ガス削減も
繊維はナノ単位の精度
 東レは、1971(昭和46)年に世界で初めて炭素繊維の生産に取り組んだ企業です。現在、東レの売り上げで一番多いのは繊維の39%で、炭素繊維は5%にすぎません。しかし、10年後には繊維と肩を並べるだろうと期待しています。
 炭素繊維の最大の長所は、鉄の4分の1の軽さでありながら、2〜3倍の強さがあり、同じ重さなら鉄より10倍強いことです。鉄と違ってさびることもなく、X線の透過性や耐熱性、加工性にも優れています。
 ここで、PAN系と呼ばれる炭素繊維の製造方法を紹介しましょう。原料となるアクリル繊維を窯で200から300度で焼き、繊維中の炭素を増やします。その後、1,000度から2,000度程度で蒸し焼きにすることで、さらに炭素の含有率を高めます。燃焼により糸は黒くなり、最終的な化学構造はダイヤモンドと同じく、炭素原子しか存在しない強い物質になります。
 この糸に欠陥があれば、繊維は切れてしまいます。そこで東レは、1,000分の1ミリという小さな欠陥も見逃さず、高品質の炭素繊維を作ってきました。現在は、より微細な100万分の1ミリの欠陥をも排除しています。この企業努力により、優れた品質の炭素繊維ができ上がるのです。
 炭素繊維を使った製品として最も古いのは、釣りざおとテニスラケット、ゴルフクラブの3品です。特に、釣りざおには35年ほど前から炭素繊維が使われています。
 炭素繊維を使用することで、当時、長さ7.2メートル、重さ900gから1kgだったさおが690gまで軽量化できました。現在のさおは9.5メートルの長さで220gという軽さです。この間、炭素繊維と樹脂の比率を工夫するなど、航空機にも使わないような取り組みをしてきました。釣ざおには世界最高レベルの炭素繊維技術が使われているのです。
環境問題の解決に貢献
 東レは、1971(昭和46)年に炭素繊維の生産工場を建てました。それから20年以上、用途は釣りざおとテニスラケット、ゴルフクラブが中心でした。
 しかし、私たちは「いつか炭素繊維を使った黒い航空機や自動車が世に出る日が来る」と信じ、ボーイング社やエアバス社に売り込みを続けました。これが実り、今では、ボーイング社の最新の航空機である787型機では、メーンの材質がアルミから炭素繊維に変わりました。
 航空機に炭素繊維を使うメリットとしては、軽量化による燃費向上や耐久性アップによるメンテナンスコストの削減が挙げられます。さらに、強度が高いので機内の気圧を上げても機体に影響がなく、さびないので機内の湿度を地上と同じぐらいに上げられます。
 炭素繊維は環境問題の解決にも一役買います。金属材料の部品を炭素繊維に変えて軽量化し、燃費が向上すると、自動車では従来より16%、航空機では7%の二酸化炭素の排出量を削減できます。
 日本の自動車や航空機がすべて炭素繊維で軽量化されれば国内の二酸化炭素排出量の約1.5%を減らせる計算になります。
 また、他の自動車材料に比べて、炭素繊維は高価ですが、今後、使用済み炭素繊維をリサイクルすれば、もっと環境に貢献できると考えます。リサイクルしたときのエネルギー消費量は原料から作るときの20分の1になる試算で、環境負荷は大きく下がります。ほかの企業と協力し、実用化に向けた研究を進めています。


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